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ヴィンテージのウェイファラーをかけたベンが運転するディスカバリーはマンハッタンを抜け出しボストンへと一路順調に向かっていた。
愛犬のトムは定位置の後部座席の足元に丸くなり、よく寝ている。
助手席のジェニファーが次のガススタンドで運転を変わると言うので交代することに、普段運転しないジェニファーもボストンへ向かうハイウェイなら運転が簡単だし、講演を控えるベンが疲れてしまわないようにしたかった。
ガススタンドで給油をして、ついでに大きなアイスコーヒーとアイスティーを買い乗り込んだ。
ラジオから流れる曲を聴きながら車を流しているうちにボストンがもうそこに見えてきた。
ベンの母校まで近づくと、ブリックの赤茶色と青々と茂る緑が印象的だった。
そこを闊歩する学生は聡明に違いなく、学業だけでなくスポーツも嗜む姿が好印象だった。

大きな駐車場に車を止めると、トムを散歩させながら広大な敷地を散策することに。
ベンはホッケーチームで汗を流したことなどを楽しそうに話しながら、当時を懐かしんでいた。
そうしているうちに、講演の時間が迫ってきた。ボルドーのニットタイを締め直し、ネイビーのジャケットを羽織る。
想像していたよりずっと大きなホールに通され、少し緊張した様子のベンをみてジェニファーは深呼吸を促し微笑んだ。
ベンは学生を前に難しいことを話すつもりはなかった、建築という仕事がどれだけ楽しくて、どんなことにやりがいを感じているのか。
そして一つのことを続けることの大事さと、情熱を維持することについて話すつもりだった。

伝えたいことをシンプルにしたせいか、ユーモアを取り入れながらリラックスして話すことができた。
最前線で活躍する先輩のリアリティのあるシンプルな話は聞く学生の胸を打った。
知識ばかりが先行し頭でっかちになりがちな学生たちにはとても新鮮な話だった。
講演が終わると、学生たちがあたたかい拍手を送ってくれた。それを見ていたジェニファーはとても誇らしい気持ちになった。
ジェニファーは今までの彼には抱かなかった感情をベンに覚えるようになっていた。

エディターとして日々忙しいジェニファーは自分のことで中心でボーイフレンドが出来ても、仕事を優先するあまり自然消滅するのが常だった。
そんな自分を見かねたジャスミンが紹介してくれたベンはとてもマイペースで余裕があった。
ニューヨーカーとしてのスピードを持ち合わせているけど、せわしなくないベンにとても惹かれている自分がいた。
それが影響してかジェニファーも仕事もプライベートをしっかり向き合うことが出来るようになって自分にもゆとりが生まれていることに気がつきはじめていた。
パートナーの成功を素直に喜べる自分がうれしかった。

何かお土産でも買っていこうと、二人でキャンパスの売店で胸に刺繍の入ったTシャツカラフルなスエットをまとめて購入することに。
こんなちょっとお土産然としたもの着てても可愛いかもとおしゃれモードに火が付くジェニファー。
母校を後にして、一度ホテルへチェックインして荷物をほどく。夜はベンの両親に会う予定だった。
ブラックのワンピースをハンガーにかけ、シャワーをあびるジェニファー。
ベンはプレッシャーから解放されベッドへ横たわる、トムがすかさずベンの腹の上に飛び乗る。
まどろんでるうちに、ジェニファーが支度を終えベンを起こす。
いつにもまして美しいジェニファーは、「遅刻するわよ」と微笑んでいた。
ベンの心は決まっていたが、もう迷う必要は何もなかった。

ベンはジャケットを羽織り、ポケットにティファニーブルーの箱があるかたしかめて、ディナーに向かうことにした。